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A06. 頑張ればできそうなとき

更新日:1月26日

 大事な試合でいつも以上のパワーが出た、ということがありますか。「火事場の馬鹿力」ということわざがあります。危機に面し、何とか頑張れば生き残ることができるというような状況では普段では考えられないような力が出るというものです。

 通常私たちの体は、骨折や筋肉の損傷を防ぐために、筋肉のパワーにはリミッターが設定されています。しかし、危機的状況から抜け出して生き残るのだというモチベーションが高いときそのリミッターが外れて、通常以上のパワーが出るのです。

 実際、パワーと恐怖の関係を調べた研究があり(Ikai M, et al. 1961)、後ろで銃声がするとパワーは上がり、そこに叫び声が加わるとさらに上がるという結果でした。不安・恐怖によって闘争か逃走反応が生じ、パワーが上がってきたということです。

 さらに、サッカー選手にサイクルエルゴメーターを漕がせ、その抵抗を徐々に上げて行き、パワーと血中アドレナリンとノルアドレナリン濃度と判断力を調べた研究があります(McMorris T, et al. 1999)。判断力については自分がボールをキープしているとして提示された相手ディフェンスの状況を見てドリブルするのか、パスをするのかを判断するというもので、その正しさと速さを調べていました。

 この研究ではパワーが最高になったとき血中アドレナリン濃度も血中ノルアドレナリン濃度も最高となりました。そして、この最高のパワーのとき、判断の正確さは変わりませんでしたが、判断が速くなっていました判断が早くなるということは通常よりも周りがゆっくり見えるということになります。まさにゾーンに近い状態だと思います。襲ってくる敵の動きがよく見えれば対応しやすくなります。ストレスによって交感神経系が優位となり、体内のアドレナリンとノルアドレナリンの濃度が上昇し、パワーが増し、脳は研ぎ澄まされます。

 危機的な状況で、頑張れば生き残れる、頑張って生き残るのだというモチベーションが高いとき、パワーが上がり、判断も早くなるので、パフォーマンスのレベルが上がると考えられます。

 「背水の陣」という故事がありますが、それは紀元前204年の中国での戦いからきています。漢の国の将軍韓信は趙の国の軍と戦うことになりました。このとき韓信の兵の数は3万人で、趙は30万人だったといわれています。常識的に考えて韓信の軍隊が勝てるはずはありません。

 ところが、韓信は、川を背にするという、後がない、逃げられない不利な場所に陣を敷いたのです。部下たちは不満を抱くのですが、韓信は「勝って宴会を開くぞ」と強気でした。一方で趙軍はその布陣を観て、もう勝てたと笑っていたといいます。しかし、いざ戦いが始まってみると、韓信が勝ちました。

 韓信の軍は兵も少なく、逃げ場はないのですが、韓信は勝てると言っており、一筋の望みがありました。兵たちは勝てると信じて死にものぐるいで戦い、結局勝てたということになります。まさに火事場の馬鹿力であり、ジャイアントキリングです。一軍を率いる韓信将軍の言動は、兵を怯える戦士から最強の戦士に変貌させたと思います。

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