A10. 格下相手との闘い
- Professor M
- 2月9日
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更新日:2月12日

プロチームが大学生のチームに負けたという報道がときどきあります。いわゆるジャイアントキリングです。その試合でのプロチームの選手構成もあるかも知れませんが、プロチームはミスを連発するなどパフォーマンスのレベルが低かったということもあるようです。しかし、一人ひとりの競技レベルやチームの戦略レベルもプロチームの方が圧倒的に高いはずなのに、なぜこのようなことが起きるのでしょうか?
相手が格下と考えたときにはストレスが弱い状態または自縛的に強い状態になる可能性があります。
ストレスが非常に弱い状態は眠っている、あるいは安心しきっている状態であり、モチベーションは低く、集中力も低下し、動きも鈍く、パフォーマンスは非常に低下します。一方でストレスが強すぎる状態では不安が強くなり、動きは悪くなり、ひどい場合にはフリージングの状態になってしまい、やはりパフォーマンスは非常に低下してしまいます。
格下の相手と試合するときには、油断しているとか、相手を馬鹿にしているという認識はなくても、勝つことだけが目標となっていると勝てると思うとストレスのレベルが低くなり、パフォーマンスレベルは下がってしまいます。
一方で、絶対に勝たないといけないという気持ちになると、「負けてはいけない、ミスをしてはいけない」(結果目標)という自縛的なプレッシャーが強くなり、ストレスのレベルが非常に高まってしまい、チャレンジ精神はなくなり、体の動きも鈍くなって、パフォーマンスのレベルは低下してしまう可能性があります。
しかしこのとき、格下の相手の中には負けて元々と、ミスを恐れず、「ジャイアントキリングだ!」とモチベーション高く、全力でチャレンジしてくるチームがあります。このような組み合わせになると、「格上」でも負けてしまうのです。
うさぎと亀の競争の昔話では、うさぎは絶対に勝てると考えているために、その競争自体には興味が湧かず、ストレスは非常に弱い状態になっています。実際に競争してみると大きなリードを奪うので「もう勝ったな」と安心して、さらにストレスのレベルは低下します。そして安心して、途中で寝てしまうのです。一方で亀は地道に歩みを続け、結局は亀が勝ったというものですね。
2019年7月3日に行われた天皇杯全日本サッカー選手権大会第2回戦でJ1の名古屋グランパスは鹿屋体育大学に0-3で敗けてしまいました。インサイド・グランパスに、試合後の吉田豊選手と赤﨑秀平選手の貴重なコメントが掲載されています。吉田選手は「闘えていなかったと思います。監督にも『怯えていた』と言われました。」「このゲームに向けてしっかりと準備してきました。試合の入りから、一つひとつのプレーに魂がこもっていなかったですし、自信を持ってプレーできていなかった。」と述べています。また、赤﨑選手は、「自分たちのミスから相手にチャンスを与えてしまっていたと思います。」「後ろを向いてプレーすることが多くて…。ボールを大事にするあまり、後ろ向きになってしまうというのは、このチームでよくあることです。」準備はしていたのに、何に怯え、自信を持てず、ボールを大事にし過ぎてしまったのでしょうか?大学生に怯えていたというよりは、「負けてはいけない、ミスしてはいけない」という結果を目標としたことによって、自縛的なプレッシャーが強まり、チャレンジングなパフォーマンスができなくなったと考えられます。
1989年の日本シリーズ読売巨人対近鉄バファローズでした。巨人が有利といわれていましたが、近鉄は、第1戦から第3戦まで連勝し、日本シリーズ初制覇へあと1勝となりました。ここで近鉄のある投手の第3戦終了後のヒーローインタビューで「シーズンの方がよっぽどしんどかったですからね。相手も強いし…」「巨人は(この年パ・リーグ最下位の)ロッテより弱い」と発言したと報道されました(Sports Graphic NumberWEB)。このことで巨人の選手は発奮し、第4戦から4連勝して逆転優勝しました。(なお、近鉄のその選手自身は「ロッテより…」については否定しています)。
巨人の選手は、「勝利が使命」という自縛的な結果目標からの強い緊張状態にあったと思います。しかし、近鉄の選手の発言に対して、おそらく「ふざけるな」という怒りが自縛的な緊張よりも優勢となり、「ミスをしないように、負けないように」という結果目標から、目の前の相手に全力で戦うということに目標が変わったと考えられます。一方で、近鉄は、楽勝できるとストレスのレベルが下がってしまったところから、一気に巻き返しを受け、それが強いストレッサーとなり、過剰な緊張状態に陥り、いつものプレーができなくなってしまったのかもしれません。