A11. イップス
- Professor M
- 2月17日
- 読了時間: 3分
更新日:2月26日
イップスとは、プレー中に緊張や不安が高まり、自分では動かそうとしていないのに手足や体幹が勝手に動いてしまう現象(不随意運動)で、通常通りにパフォーマンスができなくなる、スムーズな動きができなくなるというものです。この現象は、ゴルファーや野球選手、バスケットボール選手、スピードスケート選手など様々なスポーツ選手に生じるといわれています。

あるとき、簡単なパターが入らなくなる、ちょっと手首が硬くなってギクシャクする。パターが入るイメージを作ってから打とうとしたら、外すイメージが襲い掛かってくる。思ったところとは違うところにボールを投げてしまったが、変なところで力が入ってしまった。フィギアで3回転半を飛ぼうとしたときに体が固まってしまって半回転しかできなかった。何とか修正しようと猛練習し、練習のときにはうまくできるので、大丈夫だと思っていたのに、大事な場面でまたその変な癖が出てしまう。メンタルかな、と座禅を組んだ。視野を広げようと古都を散策した。それでもイップスは治らない。抜け出せない敗北感。自分にはこの競技は合わないのかもしれない、自分はアスリートとしての資質がないのかもしれない。子供のころからの夢だったけど諦めよう。
このイップスはパフォーマンスを悪くするので、成績が低下してしまうとか、イップスを恥ずかしいと感じてしまうなどにより、そのスポーツから離れてしまうアスリートもおり、アスリートのメンタルヘルスや生活の質に大きな影響を与えるものです(Smith et al. 2003)。
我が国のプロゴルファーは35%がイップスを経験していると報告されています(Revankar et al. 2021)。ネット情報(しらけん)によると宮里藍さんはパターイップス、丸山茂樹さんはティーショット、湯原信光さんはパットイップス、海外ではトムワトソンがパターイップスになるなど、多くのプロゴルファーがイップスに悩まされてきているようです。さらに野球では内野から外野へのコンバートで改善したようですが、内川聖一さんや松井稼頭央さん、田口壮さんがイップスになったそうです。また、最近ではDeNAの徳山壮磨選手がイップスになり、克服したことをカミングアウトしています。
では、このイップスはどうのようにして出てくるのでしょうか?
脳から手足などに通じる運動経路の機能が、高ストレスの下では低下してしまうになったものと言われていますが、その病態についてははっきりとしたメカニズムはわかっておらず、局所性ジストニア(意図していない筋肉の収縮によって思いと違う動きになる症状)などの神経の障害(Lenka et al. 2021)やchoking(むせび)などの心理的な障害の両者が絡み合って生じるという考えもあります( Smith et al. 2003 ; Ioannou CI, et al. 2018)。
日本のエリートゴルファーへの調査ではイップスゴルファーの約57%は症状が心理的な原因によるものと考えていたそうです。そして、対処方法としては、練習量の増減や、グリップを変える、別のパターを使用するなどの自己流の改善方法やメンタルスキルトレーニングを用いるなどと報告されています。また、このような方法によってアプローチイップスには改善がみられるそうですが、パターイップスでは改善は乏しいとも報告されています(Revankar et al. 2021 )。
認知行動療法などの心理療法(伊豫, 2023)や、薬物を使った治療(Adler et al. 2020)やボツリヌス療法(Revankar et al. 2021 )、定位脳神経外科手術(Shukla et al. 2018)なども提案されています。