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B09. ストレス対処法

更新日:2月17日

 スポーツに限らず、我々は日常生活で常にストレッサーに囲まれています。そのストレッサーに対処(ストレスコーピング)していく方法をストレス対処法と言います。

 ストレス対処法はまずそのストレッサーを変えることができる場合変えることができない場合に大きく分かれます。直接ストレッサーに対峙して解決していくことを問題焦点型の対処法といいます。しかし、解決できないときには認知的再評価型気晴らし型情動焦点型社会的支援探索型を用います(坪井康次.心身健康科学.2010)。なお、現実的にはどれか一つの方法を採用するというよりも組合せていくことが多いでしょう。

 問題焦点型は、ストレスの原因(ストレッサー)に直接働きかけて解決を図るという対処法です。例えば、寝不足でストレス状態のとき、夜遅くまでゲームをしているのが原因であればゲームを早くに切り上げることによって解決されます。また、パワー不足がストレスの場合には、パワーアップすることを目標としたフィジカルトレーニングを設定して、取り組んでいくことになります。

 認知的再評価型はストレスの原因に対する考え方を見直す、受け止め方を変えるというもので、主に認知療法/認知行動療法を用いた対処法です。 

 気晴らし型の対処法は、ストレスとなっていることを考えるのをしばらく止める、忘れるというものです。好きなことや楽しいことをして気分転換してストレス状態を緩和するというものです。しばらくして冷静になったらストレッサーについて考え、対策を考えます。

 情動焦点型の対処法は、辛さや嫌なことを溜めてしまうのではなく、そのようなネガティブな感情を出してしまうというものです。思いっきり泣いてしまうとか、セルフトークで辛いことや嫌なことを言葉に出して、感情を処理するものです。

 社会的支援探索型の対処法というのは自分だけで解決しようとして一人で抱え込んだりせずに、家族やコーチ、友人に話を聞いてもらう、専門家からアドバイスをもらうなど、他に助けを求めるものです。自分一人では思いつかないような解決法が見つかるとか、自分の大変さを理解してサポートしくれるという安心感はストレスを軽減してくれます。

 最近は身近にいて自分を受け入れて、前向きにサポートしてくれる味方である恋人や配偶者などのパートナーなどとの二人で対処するダイアディック・コーピングの重要性も指摘されています(Norris LA, et al. 2017)。アスリートがインタビューで、家族やパートナーに感謝しているのをよく目にします。大谷翔平選手も「my beautiful wife」に感謝すると話していました。

 マラソン選手で監督もされておられた瀬古利彦氏は、折れない心を作るためには、仲間を作ることが有効な手段であり、仲間と失敗談を明るく話したり、悩みを打ち明け合ったりすることが大事としています。また、「本当につらい時には憂さを晴らしてもいいと思う。私は母親から電話がかかってくると、そこで泣きごとを言った。言えばあとはスッキリしているのだから、人間とはおもしろいものだ」としています。アスリートにとって、仲間との会話による認知的再評価や気晴らし、情動焦点型のストレスコーピングが重要であることがわかります。(瀬古利彦のすべてのランナーに伝えたいこと.2015年.)

 2024年のパリオリンピックで金メダルを期待されていた女子柔道選手が思いもよらず1回戦で負けてしまい、その後、会場で号泣しました。本人にとっては大変なショックで冷静に対処できない強いストレス状態だったはずです。号泣はストレス対処法としては情動焦点型となります。家族やコーチなど周囲の人たちの支援もあったと思いますが、このストレス対処法でうまく切り抜けたと思います。その後のインタビューには冷静に答え、しばらくして次回のオリンピックで金メダルを狙いたいと語っていました。

 レスリングの文田健一郎選手は2021年の東京オリンピックでは銀メダルで終わり、悔しく、また楽しめない日々が続いていました。しかし、2024年のパリオリンピックに向けて奥さんがスポーツ栄養学の資格を取るなど肉体面でも精神面でも献身的に支えていたそうです。「奥さんが自分と同じくらいの熱量でパリオリンピックの金メダルを目指してくれていた」と奥さんの協力に感謝を述べていました。パリオリンピックでの金メダルは奥さん支えが大きかったのです。まさにダイアディック・コーピングです。大谷翔平選手も奥さんに感謝の言葉を述べていましたね。

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