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C03. レジリエンス:逆境を乗り越える

更新日:1月26日

レジリエンスとは、何か困難なことや悪いことが起きた後に、再び、幸福になったり、成功したりする能力とされています。いわゆる“逆境からの復活”“逆境に強い”です。レジリエンスの強弱の要因には個人の要因と社会的ネットワークの要因があるといわれており、それぞれの強化を図ることがレジリエンスを高めることに繋がります(Sainton A, et al. 2018)。

 本人の要因としては、何としてもやり遂げるという「粘り強さ」と、自分は困難な状況に対応できる、立ち直ることができる、という「跳ね返る力と言われています。この跳ね返る力とうのは、自己効力感や自尊心、さらに物事を前向きにとらえようとする楽観性ポジティブなフィードバック、そして、感情をコントロール能力とされています。これらはまさにアスリートが経験してきたことであり、また「モチベーションを高める」ためにも重要な要因としてあげたことです。

 社会的ネットワークの要因とは、主に家族やチームメート、スタッフ、友人、学校の人たちや地域の人たちなど本人の周辺にいる人たちとの関係になります。その人たちは本人と良好な関係を保っており、本人を心配し、成功を信じるなど本人を肯定的に支えており、さらに悩みを聞いてくれる、いっしょに気晴らしをしてくれることなどが必要と言われています。ストレス対処法から考えると、強いストレス状態にあるとき、ストレッサーを解決するために相談できる人、考え方など認知の修正に協力してくれる人、いっしょに気晴らしに付き合ってくれる人、率直な感情を吐露できる人、そして辛い状況に共感して支援してくれる人がいることが大事ということになります。最近はパートナー(恋人や配偶者)からの前向きな支援も重要と言われています(ダイアディック コーピング)(Jowett S & Cramer D. 2009; Norris LA, et al. 2017)。

 ところで、レジリエンスが高まるには、ストレスに曝されたという経験も重要といわれています。その経験は予防接種のような効果をもたらすともいわれています。その人にとってはチャレンジにはなるけど、必死にならなければいけないほど強いストレスではない状況を経験しておくことがレジリエンスを強化するというのです。その時に利用して役に立ったストレスに対する戦略や対処技術は、将来のリスクや逆境に直面したときに役立てることができるからです。これは「免疫」または「鍛錬」効果と呼ばれることもあります。

 私たちの調査では全国大会出場レベルの高校生アスリートたちはレジリエンスが高く、コロナ流行によるストレスで生じる強い不安や抑うつに陥る人の割合が一般の学生に比べて有意に低かったという結果が得られています(Yano, F, et al. 2024)。スポーツを通して家族や学校、部活の仲間たち、地域の人たちと良好な関係が形成され、また厳しい練習や試合の勝敗を経験することによって粘り強さや自己効力感の向上によって育まれたアスリートの高いレジリエンスがスポーツ状況以外のストレスにも役立つ可能性が示唆されたと思います。

  パリオリンピックの卓球女子代表の早田ひな選手は、左前腕の怪我にも関わらず、シングルスで銅メダル、その後の女子団体でも銀メダルを獲得しました。彼女はインスタグラムで、大会中の利き腕の怪我という逆境において、補欠だった東京オリンピックからの3年間を支えてくれた人々の顔を思い浮かべて「諦めるわけにはいかない」と前向きに切り替えたそうです。そして、「私は昔から人に恵まれているなと感じることが多く、今回も皆さんの応援、サポートが無ければ私はこの舞台を去ることになっていたと思います。だからこそ皆さんに銅メダルを見せたい、その一心で頑張り続けることができました!! …本当にありがとうございました」という思いを報告していました。周囲の人々の支えは彼女の高いレジリエンスの源になっていると思います。

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