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C06. ハイテンションと傍若無人

更新日:2月26日

闘争心と自信に溢れ、ハイテンションで睡眠時間を削ってエネルギッシュに活動し、気っ風がよくて金遣いも荒い。しかし、自分が正義とbossyで、機嫌を損ねると怒り出すので、周囲の人は引いてしまう。近くにこのような人はいるでしょうか?

 躁病が疑われます。精神医学では以下が認められた場合には躁病とされます(DSM-5)。

気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する。」

 診断基準上ではさらに次のうちの少なくとも3つの特徴が必要です。「自尊心が肥大し、3時間眠っただけでよく休めたと感じるというような睡眠欲求の減少、普段よりも非常におしゃべり。また様々なアイデアが浮かんでくるとともに、すぐに注意が散漫してしまう。職場や学校内、性的なことで目標を達成するのに他のことには目をくれなくなる。そして浪費性的無分別ばかけた商売への投資などまずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中する」ことなどが加わってきます。さらに、それらは社会的にまたは職場などで著しい問題を起こしている、とか入院しないと防げないほど自分自身または他人に害を及ぼすほど重篤であるとされています。

 例えば、迷惑系ユーチューバー。バズルことを目的に、他人の迷惑を顧みず、執拗に迷惑行為をハイテンションで繰り返し(目標指向性の活動)、注意する人に対して、自分が正義だと上から目線で怒りだし、攻撃的になる。ちょっと気に入らないと、お前が悪いと「あおり運転」をする人。また偉い人、強そうな人には媚び、本人が自分よりも下と考える人には偉そうにふるまうというように上下関係(ヒエラルキー)で態度が変わる。そこに実際の地位が加わると周囲は大変です。武家の家訓などには、躁状態に気を付けるようにというような行動規範が見られることもあります。

 本人は躁のときには自分が一番で、気持ちよく活動しています。良い循環に入れば大成功を収め、「英雄色を好む」などとおだてられて悦に入る。一方で、怒りっぽくて傍若無人で残虐なふるまいから周囲の人たちには恐れられ、辟易とされている。ときに犯罪行為にも至ってしまうとか、大きな借金をする。ハッピーマニーグランピーマニーパリピ。その結果、友人や家族、同僚、社会的地位や信用を失う。なお、一般的には責任能力はあるとされるので、犯罪や借金の責任は自ら取らなければなりません。

 双極性障害は躁状態とうつ状態によって診断される精神疾患ですが、平均発症年齢20.8歳で、その近縁も含めると生涯有病率4.4%(Merikangas et al.,2007)とよくある疾患でもあります。高い競争心やエネルギッシュな活動からスポーツ選手や芸能人、政治家などにもそれと疑われる人を見ることもあります。歌手のマライア・キャリーは長年、双極性障害を患ってきたと告白しています。また、双極性障害では自殺完遂のリスクも高いと報告されており(Miller & Black, 2020)、最後は猟銃自殺したノーベル賞作家のヘミングウェイも双極性障害と考えられています。さらに、生活習慣病のリスクが高いことも報告されています(Huang K, et al., 2024)。

 躁状態は病的状態であり、適切な治療で「本来の自分」に戻ることは可能です。しかし自分が病気の状態であることの認識がなく(病識の欠如)、治療に乗ることは難しいのも現実です。また抗うつ薬やステロイド、乱用薬物で誘発されることもあるため、関係者は留意しておくべきです。

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